ATC – [new-SCM-11][new-SCM-7] 音質試聴テスト

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new-SCM-11 メーカー希望小売価格 ¥220,000(税別) (この製品のご購入はこちら

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形式 2 ウェイ 2 スピーカー /密閉型
使用ユニット トゥイーター・new25mmφソフトドーム / ネオジウムマグネット ミッド / ウーファー・150mmφ 特殊コートポリエステル織コーン CLD
再生周波数帯域 -6dB・56Hz 〜 22kHz
クロスオーバー周波数 2.2kHz
インピーダンス
外形寸法 232W×381H×236D(mm)サランネット含む / ターミナル別
重量 10.9kg(1本)
仕上げ Cherry or Black ash

最近の試聴テストの手順通り、SR6008 Specialでインターネットラジオ放送を連続して48時間以上聞いてみました。繋いだ瞬間出てきた音を聞いて、まず驚きました。音が広がらず、細かい音もまったく聞こえず、びっくりするくらいしょぼしょぼした音だったからです。接続を見直し、プラス(上)、マイナス(下)からプラス(下)、マイナス(下)に変更すると、少し音が良くなりました。しかし、それでもペア数万円のスピーカーくらいの音しか出てきません。一体どうしたのか?と思いながら、30分も鳴らしていると音がまったく変わりました。 エイジング不足を疑い調べましたが、すでに連続で100時間は鳴らされていたようです。ともかく、十分試聴に耐えうる音質にまで一気に向上したのでホット胸をなで下ろしました。

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音質テスト

使用機材

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AIRBOW SR6008/Special AIRBOW sss-2013 AIRBOW beat board

 

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歌手:ヘイリー/アルバム:オデッセイ/曲:アベマリア

イントロのストリングに厚みがあって、とても細かく鳴ります。ストリングスの中域の厚みが凄く、ぐいぐい押して来る圧力感を覚えます。ボーカルは響きが硬質で引き締まっていますが、テキスタイルドーム型ツィーターを使う良さで硬さはなく滑らかです。ボーカル、ストリングス共に音にシッカリした「芯」があり、音像が濁ったり膨らんだりしません。この引き締まった感じが「密閉型スピーカー」の良さだと思います。 キャビネットの鳴きが少なく余計な響きが付かないストリングスの音やボーカルが非常に心地よく、左右スピーカーの中心付近で聞く音は密度感・繊細さが共に非常に高く「ヘッドホン的な良さ」を感じさせてくれました。 この価格帯のお薦めスピーカーにStirling Broadcast社のLS3/5Aがありますが、それと比べてSCM-11は音がさらに引き締まっている印象が強く、「凜」とした音で鳴ります。また低音は密閉型から想像するより「出ない」という印象ではなく、思ったよりも出ます。このクラスの密閉型スピーカーではKripton KX-3がありますが、SCM-11の方が中低域の厚みに優れ帯域バランスに優れている印象です。最初は本当に細かい音が鳴らず、酷い音だったのが信じられない変わりようです。 従来モデルから「艶/色彩感」が大きく改善され、密閉型の「良さ」を強く感じさせてくれながら「開放感」や「表情の明るさ」も加わったSCM-11はこのクラスで自信を持ってお薦めできるスピーカーの一つに仕上がっています。精緻でスムースな良い音のスピーカーに仕上がっています。比較的小さな部屋でスピーカーの音を直接聞くような使い方でSCM-11は、その能力を最大に発揮しそうです。

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歌手:レディーガガ/アルバム:ARTPOP 曲:AURA

手で触れそうなほど音の密度が高く、定位感に優れています。低音はATCらしく若干ウェットですが、密閉の良さでだらしなく広がったりしません。 余計な響きが少なく高密度な音色と色彩表現の鮮やかさに「原色」の美しさが感じられ、滑らかで透明感の高いボーカルには艶があります。しかし、色彩コントラスト感はそれほど「濃い」方ではなく、ジャンパーを交換してもう少し「カラーコントラスト」を上げるとさらに良い音になると思いました。 SCM-11の良さは、良い意味で伸びすぎない高音と厚みのある中音、引き締まった低音による「高い密度感と帯域バランスの良さ」だと思います。 スピーカーから密度の高い音がぐいぐい前に出て、身体にぶつかってきます。音のシャワーを浴びる。そういう表現が当てはまるくらい高密度でパワフルな音が出ました。

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歌手:ホリー・コール/アルバム:ドント スモーキン ベッド 曲:テネシーワルツ

聞き慣れた、ホリー・コール・トリオの「テネシーワルツ」を聞いてみました。 SCM-11の搭載するテキスタイルツィーターの「僅かな共振」が、高音の透明感とエコーの美しさを倍加しています。 ピアノにはしっかりとした打鍵感が感じられ、やはり高密度な音がしっかりとした塊感を持っています。ピアノの重厚感はこのクラスのスピーカーでは随一といってよい素晴らしさに思いました。ウッドベースの音も太く、前に出ます。特に中音の厚みと密度感の高さは、圧倒的と言えるでしょう。 ボーカルを含めたすべての音の質感と高密度な音から、キャビネットとユニットの剛性の高さが伺えます。かなりコストを掛けなければ出せないこの音が、ペア20万円強のスピーカーから出てくるのは驚きです。少なくとも2倍くらいの価格のスピーカーでは出ないほどの、「質感の高さ」をSCM-11は感じさせてくれました。

試聴後感想

最初にインターネットラジオを聞いたときは、とても試聴リポートを書けないような耳を疑うチープな音でした。それから画期的に音質が向上しましたが、チープな音もある意味でSCM-11の「本質」だと思います。 以前から思うのですが、ATC製品には「コストがかかっている」と思います。ATCの製品はスピーカーだけではなく、「同じ価格の他社製品と比べ遙かにコストが掛けられている」印象を強く受けます。 密度の低い木材で作られたスピーカーを拳で叩くと低級な膨らんだ音で響きますが、SCM-11を拳で叩くと硬く引き締まった音がします。それはキャビネットが密度と質の高い厚みのある木材でお金を掛けて作られているからです。ユニットもATCが「自製」する関係で、一クラス上の上級なユニットが惜しげもなく奢られています。しっかりとコストを掛けて作られたスピーカーならではの質が高く引き締まった音をSCM-11は聞かせてくれます。 しかし、欠点もあります。それは「良くも悪くも響きが少ない」ということです。 PC・ネットワークオーディオやデジタルアンプの「響きの少ない音質」をSCM-11に入力すると私が鳴らし始めに感じたような「スカスカの音」が出るかも知れません。それは、SCM-11に「キャビネットの響きという潤滑剤」が少ないためです。スピーカーの響きが少ないと、場合によっては音と音の間に「隙間」が出来てしまいます。悪かったときのインターネットラジオはMP3/128bpsの放送ですが、音の密度が不十分だったため「ソースの悪さ」が露呈したのでしょう。ソースをWAVに切り替えると驚くほどよい音が聞けましたから、これは間違いないと思います。デジタルのかさかさ・スカスカの音では、SCM-11の良さを発揮できません。 SCM-11はこの価格帯で随一の「質の高さ」を持っていますが、同時に「ソースやアンプに厳しいスピーカー」でもあります。良質なCDプレーヤー、可能であればレコードをソースにして、響きがやや多いアンプ(例えば真空管アンプ)などと組み合わせると良さそうです。 密閉型スピーカーは低音が出にくいので、「ハイパワーなトランジスターアンプと組み合わせなさい」という説明もありますが、低音を狙ってデジタルアンプなどと組み合わせると「潤いのない音」になって失敗しそうです。中低音がやや膨らんでも構わないので、パワーや特性よりも響きが多めで潤いのあるアンプやプレーヤーとの組み合わせがお薦めです。真空管のシングルアンプは出力が小さいので、能率の低いSCM-11との組合せでは大音量は出せません。しかし、自室でしっとりと音楽をお聞きになられるならこの組み合わせもお薦めです。釣り合う価格帯のアンプでは、Triode TRV-300SER(プスバン300B交換済みモデル)などが、ベストマッチするかも知れません。

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new-SCM-7 メーカー希望小売価格 ¥150,000(税別) (この製品のご購入はこちら

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形式 2 ウェイ 2 スピーカー /密閉型
使用ユニット トゥイーター・new25mmφソフトドーム / ネオジウムマグネット ミッド / ウーファー・125mmφ 特殊コートポリエステル織コーン マグネット重量 3kg
再生周波数帯域 -6dB・60Hz 〜 22kHz
クロスオーバー周波数 2.5kHz
インピーダンス
外形寸法 174W×300H×215D(mm)サランネット含む / ターミナル別
重量 7.5kg(1本)
仕上げ Cherry or Black ash


検証動画


 

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歌手:ヘイリー/アルバム:オデッセイ/曲:アベマリア

SCM-7で聞くヘイリーの声は、明るくチャーミングでより若く感じられます。またSCM-11ではやや出にくかった「情緒」が、SCM-7ではより強く感じられます。 ウーファーの口径がSCM-11よりも小さくSCM-11に比べると中低域の「重厚感」は薄くなりましたが、このクラスの水準以上の中低音の厚みは十分に感じられます。 しかし、ウーファーのレスポンスが向上しツィーターとのバランスが改善するので、中域から高域にかけての音が「軽く」、「明るく」、「表情が繊細」になりました。 SCM-11とSCM-7は、どちらが良いというのではなく雰囲気が違いう感じです。大排気量エンジンの重厚感と質感の高さを感じさせてくれたのがSCM-11なら、SCM-7は中型排気量のエンジンをブン回す感じです。レスポンスが早く音離れの良い気持ちの良さを感じます。 やや「作られた感(オーディオ的)」を感じ、それがある種の快感に繋がっていたSCM-11に比べると、SCM-7の音は自然で明るくチャーミングで、音楽はより開放的に鳴ります。心が軽くなる音です。

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歌手:レディーガガ/アルバム:ARTPOP 曲:AURA

イントロから感じるのは「SCM-7のレスポンスの良さ」です。SCM-7を聞くと、SCM-11の重厚感が「レスポンスの重さ」から作られていたものであることがわかります。もちろん、そういう「作られた感」も快感なのですが、それが「SCM-11の音色がやや単調」という印象を生んだのかもしれません。 SCM-7で聞くGAGAは、切れ味があります。SCM-11がヘビー級の重いパンチなら、SCM-7は手数で勝負するライト級の鋭いジャブです。次から次へと音が洪水のように押し寄せてきます。 組み合わせているAIRBOW SR6008 Specialは十分なドライブ能力を持っていますが、さすがにSCM-11/7の「重いウーファ-」を駆動制動するのは少し難儀している様子です。「音が止まる」のが僅かに遅れる印象ですが、それが「低音のウェット感(若干の端切れ悪さ)」を感じさせるのかも知れません。 SCM-11が20万円強、SCM-7は15万円ペアという低価格ですが、アンプをケチると鳴らないと思えます。もしかすると、100万円くらいのパワーアンプを使わなければ「鳴りきった」感じがしないかも知れません。価格以上のポテンシャルを秘めた、罪作りなスピーカーです。

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歌手:ホリー・コール/アルバム:ドント スモーキン ベッド 曲:テネシーワルツ

SCM-11に比べてイントロのハーモニカの音が軽くなりました。ピアノも重苦しさから解放され、軽やかに鳴っています。生演奏に近いという評価軸なら、SCM-7はSCM-11に勝ります。しかし、ここがオーディオの面白いところでSCM-11の何とも言えない「重厚感の魅力」が恋しい気持ちもあります。 ホリー・コールの声、ピアノの音、ハーモニカの「音色の違い」は、SCM-7がより鮮やかです。楽器の質感が「生」に近く、音を聞くことに「ストレス」が感じられません。 しかし、やはり「作られた雰囲気を持つ」こともオーディオ的な魅力です。そういう意味では、音楽を聴くなら「SCM-7」、音を聞くなら「SCM-11」と楽しみを使い分けられそうです。

試聴後感想

SCM-11は音全体を僅かに着色したイメージがありました。しかし、その着色に独自の魅力を感じたことも事実です。そのSCM-11のオーディオ的魅力(作られた感じ)を取り除いたスピーカーがSCM-7です。音楽を聴くという目的のためなら、私は迷わずSCM-7を選ぶでしょう。SCM-11よりもレスポンスが早く、スピーカーの独特な音を聞かずに済ませられるからです。 また、SCM-7はSCM-11のような特有の色づけを持たないので、楽器やボーカルの違いがはっきりと出ます。ユニットの動きが軽く、音質が開放的なSCM-7はソースやアンプとのマッチングも穏やかなはずです。 SCM-7にもSCM-11にも、ATCの独特なイメージ(イギリス的冷たく重い感じ)が若干あります。それを「嫌い」でなければ、SCM-11/7は購入価格を遙かに上回る「音の良さ」であなたを納得させてくれるでしょう。 価格も含めカジュアルにATCの良さを味わえるSCM-7ですが、ペア15万円のスピーカーとしては望外の質の高さを持っています。もしSCM-7の価格が一本15万円だといわれても私は驚かず、それでもSCM-7を迷わず推薦すると思います。両機とも製造コストのかかった、正統派の良いスピーカーでした。

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